
2016年10月1日に「犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯罪収益移転防止法)」の法改正がありました。これが法人クレジットカードに何の関係があるのかというと、実はこの法改正によってカード申し込み時の申告手順に少し変化があるのです。
具体的には、法人クレジットカード申し込み時の「実質的支配者」の申告方法が変わりました。ですがこれだけをお話しても、何がどうなったのかいまいちよくわからない、という方が多いと思います。
「実質的支配者って何?」、「申告方法の何が変わったの?」
あなたもこんな疑問をお持ちではないでしょうか。
そこで今回、法人カード比較ナビでは、某大手クレジットカード会社に取材し、実質的支配者申告に関する詳しい情報を入手してきました!法人クレジットカード申込時の実質的支配者申告について徹底的に解説していきます!
詳しい解説を読む前に知っておきたいポイントは次の通りです。
ポイント!
- 法人クレジットカード申し込み時の実質的支配者は自然人(個人)まで遡って確認する
- 個人事業主、国、地方公共団体、人格のない社団または財団、独立行政法人は申告の必要なし
- 実質的支配者の該当者は「法人の性質」によって2パターンに別れる
パターン①:株式会社、有限会社、投資法人、特定目的会社等
パターン②:一般社団・財団法人、学校法人、宗教法人、医療法人、社会福祉法人、特定非営利法人、持分会社(合名会社、合資会社及び合同会社)等
難しい専門用語が並んでいますが、ここからはひとつひとつ丁寧に解説していくのでご安心を。
これから法人クレジットカードの申し込みを考えている、という方に参考にしていただきたい内容になっているので、是非チェックしてみてくださいね。
犯罪収益移転防止法改正による法人カード申込時の変更点

犯罪収益移転防止法の法改正により、法人クレジットカードに申し込む際に実質的支配者の申告が必要になりました。
では、この「実質的支配者」とはそもそも何か。
ここでは「実質的支配者」についての基本的な部分について説明していきます。
実質的支配者の確認は個人まで遡ることが必要
まずは実質的支配者の公式な定義について、警視庁の公式Webサイトで発見した引用文を見ていきましょう。【実質的支配者とは】
実質的支配者とは、法人の事業経営を実質的に支配することが可能となる関係にある者をいい、どのような者が該当するかについては、法人の性質に従って定められています。 なお、平成 27 年の犯罪収益移転防止法施行規則改正(平成 28 年 10 月1日施行)により、議決権その他の手段により当該法人を支配する自然人まで遡って確認することとされました。
出典:犯罪収益移転防止法の解説、パブリックコメント|JAFIC 警察庁
https://www.npa.go.jp/sosikihanzai/jafic/hourei/law_com.html
この引用文の記載によると、実質的支配者とは文字通り実質的に会社の経営を支配することができる人間のことを指します。今回の法改正で重要となるのが「自然人まで遡って」の部分。
これまでは、実質的支配者の該当者には法人も含まれていました。
ところが今回の法改正により、実質的支配者を確認する際には、さらにその先の個人まで遡る義務が発生した、ということです。
ポイント!
- 実質的支配者を確認する際、個人まで遡ることが必要に
実質的支配者に「団体」が該当する例外
この度の法改正によって、法人クレジットカード申し込み時の実質的支配者確認で、個人まで遡る必要がある、ということをお話ししました。ところが、このルールには例外があるので注意が必要。実は、実質的支配者に個人ではなく国等の「団体」が該当するケースがあるのです。
実質的支配者が次の6項目のどれかに当てはまる場合には、「団体」そのものが実質的支配者という扱いになります。
・国、地方公共団体
・人格のない社団又は財団(例:マンションの管理組合など)
・独立行政法人
・国又は地方公共団体が資本金等の 1/2 以上を出資している法人(例:住宅供給公社など)
・外国政府、日本が加盟している国際機関(例:国際連合、国際通貨基金など)
・上場企業
出典:犯罪収益移転防止法の解説、パブリックコメント|JAFIC 警察庁
https://www.npa.go.jp/sosikihanzai/jafic/hourei/law_com.html
この場合、法人クレジットカード申し込みで実質的支配者を申告する際に「国等」や「上場企業」という選択項目を選ぶことになりますので気をつけましょう。
個人事業主も申告が必要か?

ここまでは、犯罪収益移転防止法の法改正による法人クレジットカード申し込み時の変更点について解説してきました。ポイントは対象を個人(自然人)まで遡るということ。
では法人ではなく、個人事業主が法人クレジットカードに申し込む場合はどうなのでしょうか。個人が実質的支配者の対象になるなら、個人事業主も実質的支配者の申告をする必要があるのではないか、と考えている方もいるかも知れません。
法人がビジネスカードに申し込む際に会社の実質的支配者の申告が必要ですが、会社を持たない個人事業主の場合はどうか、というと・・・実質的支配者を申告する必要はありません!
先ほどの引用にもあるように、そもそも実質的支配者とは「法人の事業経営を実質的に支配することが可能となる関係にある者」と定義されています。つまり、法人ではない個人事業主は、実質的支配者の定義から外れているということですね。
ちなみに、国、地方公共団体、人格のない社団または財団、独立行政法人なども個人事業主と同じく、実質的支配者の申告は必要ありません。
実質的支配者の該当者は法人の性質によって異なる

この度の法改正によって変わった、法人クレジットカードの申し込み項目については、ご説明してきました。
それではここからは、どんな場合に実質的支配者とみなされるのかという、実質的支配者の定義について解説していきます。先ほどの警視庁の犯罪収益移転防止法に関する記載の引用には、実質的支配者の定義について次のような一文がありました。
“どのような者が該当するかについては、法人の性質に従って定められています。”
ここで気になるのは「法人の性質」ですね。犯罪収益移転防止法ではこの法人の性質について、次のように2つのパターンによって場合分けされています。
顧客等が資本多数決法人である場合 | 顧客等が資本多数決法人でない場合 |
---|---|
株式会社、有限会社、投資法人、特定目的会社等 | 一般社団・財団法人、学校法人、宗教法人、医療法人、社会福祉法人、特定非営利法人、持分会社(合名会社、合資会社及び合同会社)等 |
あなたの会社がどちらに属するかによって、実質的支配者の該当者が変わるということ。ではここから、それぞれの性質によって、どのように実質的支配者が定義されているかを解説していきます。
① 株式会社、有限会社、投資法人、特定目的会社の場合

おそらく法人の場合はこのパターンがほとんどだと思いますが、こちらの場合はどんな人が実質的支配者に該当するのでしょうか。
実質的支配者の確認方法は、次の二段階に別れます。
- a.議決権の25%を保有する自然人(個人)がいるか
- b.出資、融資、取引その他の関係を通じて事業活動に支配的な影響力を有する個人がいるか

株式会社や有限会社、投資法人、特定目的会社の実質的支配者を判断する場合には、議決権が決め手になります。議決権を全体の25%以上保有している自然人がいる場合、法人クレジットカードの申し込み時にそこまで遡って申告をする必要があるということです。
ただし議決権の保有割合で実質的支配者を判断する場合には、1点注意しなければならない事があります。
それは、他に50%以上の議決権を持つ自然人がいる場合、たとえ25%以上(50%未満)の議決権を持っている自然人だとしても、実質的支配者には該当しないということ。この場合は、50%以上の議決権を持つ自然人が、法人の実質的支配者となります。
また、25%以上の議決権を持っていても、事業経営を支配する意思や能力が無いことが明らかな場合でも実質的支配者には該当しません。ちなみに、議決権の保有率の割合は、直接保有と間接保有の合計ですので、間違えないようにご注意を。
② 顧客等が資本多数決法人でない場合

こちらについても、先ほど紹介したパターンと同様に、確認方法は二段階あります。それが次の2つ。
- a.法人の収益総額の25%超の配当を受ける自然人(個人)がいるか
- b.出資、融資、取引その他の関係を通じて事業活動に支配的な影響力を有する個人がいるか

ほとんど同じですが、一つ目の判断基準が異なりますね。こちらは議決権の25%ではなく、法人収益総額の25%という条件になります。
これについても、他に収益総額の50%以上の配当を受けている自然人がいる場合には、25%以上(50%未満)の配当を受けていたとしても実質的支配者には該当しません。この場合は収益総額の50%以上の配当を受けている自然人が、法人の実質的支配者となります。
またこれもパターン①と同じですが、収益総額の25%以上の配当を受けていたとしても、事業経営を支配する意思・能力が明らかに無い場合も実質的支配者の定義からは漏れます。
実質的支配者の定義について、2つのパターンをそれぞれ解説してみましたが、いかがでしょうか?ポイントは、保有している議決権の割合か、受けている配当の割合かの違いです。二つ目の条件は同じなので、一つ目の条件をお間違えないように気をつけましょう。
ポイント!
- 実質的支配者は、「法人の性質」によって定義が異なる
① 株式会社、有限会社、投資法人、特定目的会社の場合
→議決権の25%以上を保有する自然人 ※例外あり
② 顧客等が資本多数決法人でない場合(①に該当しない法人)
→法人の収益総額の25%以上の配当を受けている自然人 ※例外あり
まとめ:法改正によって変わったことと申し込み時の注意点

犯罪収益移転防止法の改正と、法人クレジットカード申し込み時の実質的支配者申告の変更について解説してきましたが、いかがでしたか?
専門用語や細かいルールなどが多く、少し難しいと感じた方もいるかもしれません。ですが、ポイントさえ掴めてしまえばそれほど複雑な話ではありません。
最後に今回のポイントを一緒におさらいしておきましょう。
ポイント!
- 実質的支配者は自然人(個人)まで遡って確認する
- 個人事業主、国、地方公共団体、人格のない社団または財団、独立行政法人は申告の必要なし
- 実質的支配者の該当者は「法人の性質」によって2パターンにわかれる
① 株式会社、有限会社、投資法人、特定目的会社等
→議決権の25%を保有する自然人が実質的支配者
② 一般社団・財団法人、学校法人、宗教法人、医療法人、社会福祉法人、特定非営利法人、持分会社(合名会社、合資会社及び合同会社)等
→収益総額の25%の配当を受ける自然人が実質的支配者
これらは今後法人クレジットカードに申し込む際に必要な知識なので、これから申し込もうと考えている方の助けになれば嬉しく思います。